New York and Jazz


サンフランシスコからの手紙
 

 

Misty

昼間は汗ばむぐらいの暑さだったのに
夕方から急に気温が下がり肌寒くなった。
用意した薄手のカーディガンを羽織ったが
そのカーディガンも、申し訳程度しか役に立たなかった。

日没の遅いサンフランシスコの港に立ち
寒さに、両手で自分の肩を抱き
急に立ち込めてきた霧を見つめながら
謎子は迷い、途方に暮れていた。

はためく港の旗にでもしがみつきたい気持だった。
霧の向こうから聞こえる汽笛の音は物悲しく
それに答えるかのようにカモメが鳴いた。

『これってまるで演歌のシチュエーションだわ・・・・』
謎子は心の中でつぶやいた。

いつまでも沈み行く夕陽を見ていたかったが
寒さに耐え切れず、踵を返し、謎子は
どうしようもなく道に迷いながら
ケーブルカーの乗り場へと向かった。

いつもは込み合うケーブルカー乗り場は
人もまばらで、すぐに乗ることが出来た。
ステップに立ち、少し身体を乗り出すと、
冷たい夜風が頬に心地良い。
ゴトゴトと走る振動に身を任せながら、
心なしか心の迷いが軽くなるような気がした。

パウエル・ストリートでケーブルカーを降り
ホテルに向かって歩き出した。
少し行くと、どこからかピアノとトランペットの音が流れてきた。
謎子はごく自然に音の方へと向かった。

そして、開け放たれたレストランの入り口から流れるLeft Alone のメロディーに、誘い込まれるように謎子は店に入った。

薄暗い店内でトランペットの返す光が
一筋の希望のように謎子に輝きかけた。

カウンターに席を取り軽い飲み物を注文して
謎子は演奏に聞き入った。
しばらくするとボーイが
メモを渡し、「彼から」と言うように黒人の
ピアノ弾きを顎で指した。

メモには
「You're as helpless as a kitten up a tree.」
とあった。

謎子がピアノ弾きの方を見ると彼は演奏しながら
肩をすくめて軽くウインクした。

なにもかもお見通しなんだ・・・
謎子は静かに微笑を返した。

曲を弾き終えたピアノ弾きは、マイクに向かって言った。
"I want to play Misty for that Japanese lady."
店内の客の視線が一斉に謎子に集まった。

On my own,
would I wander through this wonderland alone
Never knowing my right foot from my left
My hat from my glove,
I'm too misty 〜〜♪

しっとりと歌い上げるメロディーを聞きながら
謎子は自分の心から徐々に迷いが消えていくのを
感じていた。

迷いは吹っ切れた、謎子は決心した。
昼間の食べ過ぎが心に引っ掛かっていたが
やはりディナーは食べることにしよう!!
よしっ!

窓の外を見上げると高いビルにかかっていた
霧も少しづつ薄れつつあった。

サンフランシスコ編 完