New York and Jazz



                             MUSIC ON OFF
●薄暗いほの灯りの部屋
   ベッドに横たわる謎子
   うつ伏せになり窓の方を見上げる。

謎子「まるで天国にでもいるようだわ・・・」

うっとりと目を閉じると星の光が部屋を突き抜けたような感覚を感じた。

それはまるで愛の炎のようだった。

温かな手が謎子の首筋からゆっくりと慈しむように背骨に沿ってなぞる。


心地よいメロディーが適度な音量で部屋の中に流れている。

今まさに謎子は、小さなこの部屋の中をメロディーと共に漂流していた。

温かな手は強くなぞったかと思うと、力を弱め、次には優しく謎子の肌を包み込む。

動きの緩急も絶妙で、心地よさの全てを知り尽くしたかのように10本の指が謎子の肌の上でリズムミカルにうごめく。

気分は翼のようだった。


「身体をそっと上に向けて・・・」

耳元で甘いキスのようにソフトな声がささやく。
 
心地よさと気だるさが相俟って、謎子がゆっくりと身体の向きを変えると

柔らかな魔法の手は謎子の身体の曲線を確かめるように上下に動き出す。


あまりの気持ちよさに涙が溢れそうになる。

喜びには、思わず笑みの浮かぶ喜びと、涙の溢れる喜びと二つある。

「これを感傷的な喜びと言うのだろうか?」

謎子はぼんやりとそんなことを考えているうちに、心は浮遊の世界に入り込む。

天国とはこんな感じなのかと思わせる、夢とも現実ともつかない空間を

ふわふわと漂っているうちに、徐々に意識が薄れ始めた。。。。。


しばらく眠ってしまったのか、トントンと軽く肩を叩かれ謎子は我に返った。

「終わりましたよ、お客様」

「え?もう?」

「ええ、気持ちよくお休みでした、ふふふ」

馴染みのエステティシャンが天使のような微笑を浮かべて謎子の顔を覗き込む。


1時間 8000円の至福の時はあっと言う間に過ぎ去った。

『でもいいの、これくらいの贅沢は自分へのご褒美だから』

謎子は言い訳のように自分に言い聞かせると、支払いのための感傷に浸りながらベッドを下りた。

 

−完− 2005/6/10